先日、太平洋戦争後、戦犯として処刑された軍人の娘さんとお会いしました。中学生の時にお父さんを亡くして、散々、学校で「戦犯の子」ということでいじめられたそうですが、お父さんが処刑される前に、聖書を手に入れて、イエス・キリストを信じたそうです。そして、処刑台に上がる前に、「私はこれから、天の御国に行きます」と大きな声で叫んだということです。お父さんの聖書の表紙の内側に、こう書いてあったそうです。
「あながたに残してやれるのは、聖書だけです。ここに本当の希望があります。あなたがたもその希望が見いだせるように祈ります。」
娘さんは、初めは、とても聖書を読む気にはなれませんでしたが、高校生の時に、家の近くで、賀川豊彦先生の伝道集会に誘われて、出席したそうです。そこで、初めて福音が分かり、キリストを受け入れたとのことです。
実は、巣鴨拘置所でクリスチャンになったのは、この方のお父さんだけではありませんでした。他にも、キリストの救いを求めた戦犯が十数人もいたのです。事の発端は、アイリーン・ウェブスター・スミスという宣教師の家庭集会でした。そこに西沢さんという女性が来て、スミス宣教師にこんな頼み事をしました。
「私の夫は巣鴨拘置所に捕らわれて、戦犯として裁かれようとしています。恐らく、彼は死刑になると思いますが、どうか、彼にキリストの福音を伝えてあげてください。罪が赦され、平安をもって天に召されるように祈ってあげてください。」
戦犯たちには月に1回、30分だけ家族のみが会うことが許されていましたが、マッカーサーから特別な許可を得て、スミス師は西沢さんに会いに行き、厳重な監視の下で、福音を語りました。
「キリストと共に十字架刑に処せられた犯罪人が最後に自分の罪を悔い改めて、『イエスさま。あなたの御国の位にお着きになるときには、私を思い出してください』と懇願しました。そこで、キリストは彼に対して、『あなたはきょう、わたしとともにパラダイスにいます』と言われました。あなたも、イエス・キリストを信じれば、今までの罪が赦され、永遠の命が与えられるのです。」
すると、西沢氏は反論しました。
「あなたは、私が戦争でどんなことをしてきたか知っていますか。私の両手は血塗られています。私のしたことを知らないから『赦し』とか、『救い』とかを簡単に言えるのです。あの戦場を見、私が何をしたか知ったら、そんな『赦し』なんて語ることができないでしょう。」
これに対して、スミス宣教師は更に、こう語りました。
「確かに、私はあなたが何をしてきたか分かりません。しかし、一つのことだけは知っています。それは、イエス・キリストの血潮はすべての罪から私たちをきよめることができるということです。キリストが全人類のすべての罪のために死んでくださった以上、神の前に赦されない罪はないのです。」
不思議なことに、西沢氏はこの言葉を素直に受け入れることができ、宣教師の招きに応え、その場でイエス・キリストを救い主として信じる祈りをしたのです。しかし、それは奇跡の始まりにしか過ぎませんでした。