私のように黒い夜
2016.8.29飽食の時代
2017.3.6アルフレッド・アドラーという名前を聞いたことがありますか。欧米ではフロイト、ユングと並ぶ心理学の3大巨頭の1人として評価されている人で、「自己開発の父」とも呼ばれている人物です。アドラーは1870年にオーストリアで、7人兄弟の二男として生まれました。中流階級のユダヤ人家庭に生まれた彼は、自身が幼い頃に病で苦しんだことや、3歳下の弟が生後1年で亡くなったことから、医師になる決心をしました。やがて、ウィーン大学医学部を卒業し、目標通り医師になったのですが、1903年には、精神分析の分野で既に名声を得ていたジークムント・フロイトに招かれ、彼の研究グループに参加するようになります。しかし、考え方の違いから1911年にフロイト派と決別し、自由精神分析協会を設立しました。後に個人心理学会という名前に変わりますが、こうしてアドラーは日中、お医者さんとして働きながら、夜は心理学に関する講演・著作活動に積極的に取り組むことになった訳です。
アドラー心理学の大きな特徴の一つは、「自己決定性」にあります。これは、生まれや遺伝、トラウマなどが人生を決めるという宿命論を否定し、「どんな環境であっても、自分の道は自分で決められる」という考え方です。その考え方を代表する、次のような「アドラー名言」があります。
「性格は死の一日前まで変えられる。」
「重要なのは、何を与えられたかではない。与えられたものをどう使うかだ。」
今、日本において、アドラー・ブームが起こっています。アドラーの考え方を紹介する本などは、飛ぶように売れています。アドラー心理学を学ぼうとする人の大半は、仕事や人生に悩みを抱えています。中には、長引く不況や貧富の拡大など暗いニュースを見て、「自分には明るい未来など来ない」と思い込んでいる人も、かなりいるようです。隣の韓国においても、アドラー・ブームが起こっています。韓国の若者たちは自分の国のことを「ヘルチョソン(地獄の朝鮮)」と呼ぶほどの閉塞感を抱え、「生まれた家庭によって人生は決まってしまう」、「一生懸命、頑張っても報われない」という意識を強めているそうです。
こうした悩める若者に対して、アドラー心理学は一つの明白な答えを提示しています。うまくいかない理由を、遺伝やトラウマ体験などの過去や自らが置かれた環境のせいにしていては、問題はいつまでも解決しない。過去の出来事や環境を受け止め、未来に向けてどう行動するかを自分自身で選ぶ。ここに、問題を解決し、人生を切り開くカギがある、というのです。
確かに、力強い言葉です。アドラーがユダヤ人として旧約聖書を信じていた信仰が、彼の心理学にどれだけの影響を及ぼしたか定かではありませんが、「私は、いのちと死、祝福とのろいを、あなたの前に置く。あなたはいのちを選びなさい」という申命記30章19節のような聖書個所が彼の考え方のベースにあるかも知れません。勿論、アドラーが人間の意志の力を強調しているのに対して、聖書信仰では個人の意思決定に神の全能の力が後押しをすることになりますが、いずれにしても、現代人にとって、プラス思考を持つということは、極めて重要なことだと言えましょう。
「するとイエスは言われた。『できるものなら、と言うのか。信じる者には、どんなことでもできるのです』」(マルコによる福音書9章23節)。