2013年に、英語の『新世界訳』の改訂版が出ました。これにより、「難解な悪訳」としての評判を幾らか払拭できたようですが、その英語訳を日本語に訳した聖書が今年に入って、デビューを果たしました。英語版と同様に、前の『新世界訳』と比べて、かなり読みやすくなったと言えます。ところが、「原語を参照しつつ、英語の『新世界訳』からなされた翻訳」(タイトルページより)であるはずなのに、英文と食い違っている個所が幾つもあります。
①「しかし、聖なる力があなたたちに働く時、あなたたちは力を受け、エルサレムで、ユダヤとサマリアの全土で、また地上の最も遠い所にまで、私の証人となります」(『新世界訳』使徒の活動1章8節)
「聖なる力」と訳されている所は、英文では、「聖霊」(”holy spirit”) となっています。
②「この惜しみない親切のおかげで、皆さんは信仰のゆえに救われました。この救いは皆さん自身によるものではなく、神からの贈り物です」(『新世界訳』エフェソス人への手紙2章8節)
「惜しみない親切」は、改訂前の「過分の親切」より分かりやすい表現ですが、英文の「受けるに値しない親切」、または「受ける資格がない親切」(”undeserved kindness”) と大きく違っています。
③「従って、私たちは信仰のゆえに正しいと認められたのですから、主をイエス・キリストを通して神との平和を楽しみましょう」(『新世界訳』ローマ人への手紙5章1節)
「正しいと認められた」という表現は、英文の ”declared righteous” に対する訳ですが、正しくは「義と宣言された」です。
④「私たちが知っている通り、神は、ご自分の目的に沿って招いた人たち、つまり神を愛する人たちのために、ご自分の行い全てを調和させています」(『新世界訳』ローマ人への手紙8章28節)
ここで『新世界訳』の訳者たちは、英文の「益」(“good”) という単語を省いています。ですから、「神を愛する人たちの益のために」が正確な翻訳となります。
⑤「初めに、言葉と呼ばれる方がいた。言葉は神と共にいて、言葉は神のようだった」(『新世界訳』ヨハネによる福音書1章1節)
「言葉は神のようだった」は、英文では、「言葉は神であった」(”the Word was a god”) となっています。
この他にも、ヨハネによる福音書3章16節、ルカによる福音書19章8節、マルコによる福音書10章8節など、和文と英文が一致しない箇所が多々ありますが、翻訳者の英語力に問題があるのか、あるいは彼らの不正直さに問題があるのか、定かではありません。