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第1章:奇妙な現象の続発
金粉が降って来る?
礼拝の最中に、突然、天井から金粉らしき物が降って来た。2011年11月13日にアメリカのカリフォルニア州レディング市にあるベテル教会において、実際に起こった出来事である (YouTube でその時の動画を見ることができる)[1]。驚いた礼拝者たちは、「神の栄光の現われだ」という説明を聞いて、興奮しながら歓喜の声を上げた。ところが、礼拝者の中には不信に思った人もいて、「金粉」を集めて顕微鏡で調べると、金粉ではなく、ホビー・ショップで購入できるマーサ・スチュワート社の gold glitter (金のラメ・パウダー) であったことが判明したという。
ベテル教会で、「羽」が降って来ることもよくある。これは、会堂に天使がいたことのしるしだそうだ。ベテル教会の主任牧師ビル・ジョンソン氏は、その著書『天が地に侵入するとき』の中で、次のように述べている。
「1998年の初頭以来、集会中に羽根が舞い降りて来るようになりました。最初はエアコンの通風管の中に鳥が入り込んだためと思っていましたが、その通風管とは繋がっていない他の部屋でも羽根が降りて来ました。今は私たちが行く殆どどこででも―――空港、家、レストラン、オフィスなど―――羽根が舞い降りて来ます」(205ページ)。
ちなみに、天使は眠っていることが多いようで、角笛を吹いて彼らを起こすことも、当然なことのように行なわれている。
更に、ベテル教会の礼拝の中で、突然、宝石が現れたと、真面目に「証し」をする人もいる(これもYouTubeで確認できる)[2]。その宝石を鑑定してもらったところ、8万円の値段がついた、とのこと。
この他に、手に油がついた、という話もある。聖霊のご臨在の証しと、信者たちは受け止めている。
礼拝に聖書を持って来る人は退場させられる?
モーニング・スター・ミニストリーズ(アメリカのノースカロライナ州)の創始者であり、「使徒」として1万の教会を指導するリック・ジョイナー氏がいる。彼はまた、キリストから多くの幻や啓示を受ける「預言者」でもある。『ファイナルクエスト』の著書の中で、彼は天に引き上げられた時に見た幻を詳細に書いている。その時、使徒パウロに会って会話を交わしたが、次のように言われたという。
「あなたこそ、私たちの希望なのです。私たちの交わしている対話にせよ、私は自分が書き送った書簡を確認することができるのみですが、あなたの場合は、さらに多くを書き表さなければならないはずです」(157ページ)。
このような体験を根拠に、ジョイナー氏はモーニング・スター・ミニストリーズ内で絶対的な権威を持っており、その語る言葉は聖書と同等のものとして受け止められる。元教会員の証言によると、礼拝のメッセージは、聖書からのものではなく、ジョイナー氏の受けた「啓示」が中心だそうだ。だから、教会に聖書を持って来る人はいない。皆、ジョイナー氏をモーセのような存在と見なし、彼の指示や助言に頼るようになる。ある時、新来会者が現れて、礼拝前に聖書を開いて読んでいると、二人の体格の良い警備員によって強制的に退場させられた、とのこと[3]。
エベレストで悪霊と対決?
誰から見ても、変わった登山隊だった。1997年9月のことだが、10数人のメンバーは、エべレストの制覇を目指したのではなく、「天の女王」と呼ばれる悪霊と対決するために、登山に挑戦した。「天の女王」は、いわゆる10/40窓(福音宣教が困難な、北緯10度から40度の地域)を支配する悪霊の名前であり、エべレストにその王座があると、「預言者」からの啓示があった。更に、「天の女王」を倒すために、できるだけエベレストの頂上に近付き、キリストの名前によって縛らなければならない、と預言者は言った。登山隊は預言者の言葉に従って、数カ月の訓練を受けて後、エベレストを登り始めた。そして、2万フィートの地点に到達すると、「天の女王」と対決をした。悪霊に対する祈りの他に、「預言的な行動」も行なった。アイスピックを使って、「イエスは生きておられる」という言葉を山の表面に刻んだ[4]。
日曜学校で天国行きツアー?
再び、ベテル教会の話になるが、礼拝をしている時に、自分は天国に連れて行かれた体験について語る人がいる。更に、当然のことのように、子供たちを一緒に連れて行ったと証しをする日曜学校のスタッフもいる[5]。教会は、子供たちに超自然的な体験をさせることが重要な訓練だと考えているようで、子供同士で互いに「預言」をさせたり、トイレットペーパーでぐるぐる巻きにした子供が「生き返る」ように祈りの練習をさせたりする。
奇跡を行なうノーハウを学ぶ学校?
ベテル教会内に Bethel School of Supernatural Ministry (ベテル超自然的ミニストリー学校) がある。世界の64カ国から集まった2000人余りの生徒たちは、ここで奇跡を行なう技術を身につけている。まず、預言するための訓練を受ける。祈りと瞑想の中で浮かんで来るイメージに従って、メッセージを語ったり、行動したりする。例えば、街に伝道に出かける前の祈りの中で、「赤い服を着ている人」とか「スターバックス」のイメージが浮かぶなら、まるでゲーム感覚で近くのスターバックスに出かけて、赤い服を着ている人を探す。そして、赤い服を着ている人を見つけると、また心のイメージに応じて預言をしたり、祈ったりする。彼らは、これを「宝探し」と言う。祈りの中で与えられたイメージが、宝探しのヒントになる訳だ[6]。
また、キリストと同じ奇跡を行なうことができると教育されている若者は、学校の壁に体当たりする実験を何度も繰り返している。復活された後のキリストは、カギのかかった部屋に突然現れたり消えたりしたと聖書に書かれているので、自分たちも壁を突き抜けることができるはずだと考え、その練習をしているという。
死人の生き返りを祈るチーム?
葬儀場で祈りをするためのチームがある。家族を亡くした人々の慰めのために祈るのではない。家族の依頼に応じて、亡くなった人が生き返るように祈るのだ。この「ミニストリー」を始めたのは、ベテル超自然ミニストリー学校の卒業生で、タイラ―・ジョンソンという人だ。そのきっかけは、タイラ―さんのお父さんの急死にある。お父さんは心臓発作を起こし、タイラ―さんの腕の中で息を引き取った。愛する家族を病気で亡くすのは神のみこころに反すると確信したタイラ―さんは、チームを組み、祈りのミニストリーを開始した訳だが、これまでに11人の人が生き返っているという。但し、医学的に証明されている訳ではないそうだ。
更に、タイラ―さんは他の教会にも出向き、「死人を生き返らせる祈りのセミナー」を開いており、それによってアメリカの11の州、及び、カナダやオランダにおいても、38のチームができているということだ[7]。
墓地での祈祷会?
何とも異様な光景である。若者たちは、偉大な功績を残して天に召されたクリスチャンの墓石にしがみついて、祈りを捧げている。地面に顔をすりつけて、口で何かを吸い上げようとしているように見える人もいる。彼らは、信仰の先輩の上にあった「聖霊の油注ぎ」を自分のものにしようとしているのだ。彼らによると、この儀式に聖書的根拠があるそうだ。
「こうして、エリシャは死んで葬られた。モアブの攻略隊は、年が改まるたびにこの国に侵入していた。人々が、ひとりの人を葬ろうとしていたちょうどその時、攻略隊を見たので、その人をエリシャの墓に投げ入れて去って行った。その人がエリシャの骨に触れるや、その人は生き返り、自分の足で立ち上がった」(2列王記13章20-21節)。
しかし、このような「聖書的裏付け」があるにせよ、墓地での祈り会は地元住民の反感を買っているようだ。
「使徒」に捧げられた高額献金に文句を言うな?
アメリカの南カリフォルニアにあるメガ・チャーチを牧会する「使徒」が礼拝のメッセージの中で、次のような証しをしていた。
「先日、ある人が私のところに来て、高額の献金を渡しました。最初は、こんな大金をもらう訳には行かないと思い、断ろうとしましたが、彼はこう言うのです。『あなたは私の使徒です。これをどうしても、あなたに捧げたいのです。』そこで、私は使徒の働き4章34-35節にある聖句を思い出しました。『彼らの中には、ひとりも乏しい者がなかった。地所や家を持っている者は、それを売り、代金を携えて来て、使徒たちの足もとに置き、その金は必要に従っておのおのに分け与えられたからである。』私はこの聖句の通りに、彼の捧げ物を受け取ることにしたのです。」
しかし、会衆の中に、この「証し」に違和感を覚える男性もいた。「あなたがたも、初代教会の忠実なクリスチャンたちのように、使徒である私に対して、同じようにしなさい」と言われているように感じ、思わず立ち上がって言いました。
「その話って、ちょっとおかしいんじゃないですか。」
すると、「使徒」が厳しい口調で、「あなたは秩序を乱す者だ」と言った。次の瞬間、二人の警備員が男性の腕をつかみ、強制的に教会の外に連れ出したという[8]。
野菜市場に預言のテント?
南カリフォルニアのとある町のファーマーズ・マーケット(野菜市場)に、野菜以外のものを提供する人々が現われた。「預言のサービス」だ。設置されたテントの入口に、「主からの預言を求める方は、気軽にお立ち寄りください」と書かれていた。「預言カフェー」の人気も高いという[9]。
牧師が蛇をチョコレートに変える?
南アフリカの話である。”End of Times Disciples Ministries Church” (終末時代の弟子たちミニストリー・チャーチ) の若い牧師が白い蛇を手に持って、会衆に向かって熱っぽく語る。「私は神の力によって、どんな物をも、別の物に変えることができます。今、蛇を持っていますが、これをチョコレートに変えましょう。」次の瞬間、隣に立っている男性信者の口に、無理矢理に蛇を押し込む。「どうだ。チョコレートの味がするだろう」と牧師が言うと、信者は頭を盾に振る。
しかし、それで牧師は満足しない。次に、ガソリンをパインアップルジュースに変えて、別の信者に飲ませる。この「奇跡」を紹介するYouTubeの動画の最後に、注意書きが出る。「水をブドウ酒に変える奇跡を、まだ行なったことのない者は、真似をしないでください。」ちなみに、当牧師は石をパンに変えたこともあるそうだ。
神社仏閣に油を塗れば悪霊を退治できる?
2015年春から2017年にかけて近畿地方を中心とした全国地域で、寺社の国宝や重要文化財などに油のような液体がふり撒かれ汚損される事件が相次いだ。警察が文化財保護法違反などの疑いで捜査を進めて行く中で、米国在住の韓国のキリスト教系宗教団体の韓国系日本人教祖が容疑者として浮上し、2015年6月1日に逮捕状が発布されている。警察は、本人がアメリカから帰国次第、逮捕する方針だが、当教祖はYouTubeの動画の中で罪を認めると共に、油を撒いた理由についてこう語っている。
「日本の社寺には悪霊がついています。だから、日本にリバイバルが来ません。悪霊を追い出し、社寺を清めるために聖霊の象徴である油を塗ったのです。」
ほとんどの日本人にとっては、不可解な説明だったようだ。
以上、世界で起こっている現象の一部を紹介したが、これらすべての現象に共通していることがある。それは、上記の団体や人間がすべて、何らかの形でNARというムーブメントの影響下にある、ということだ。どんなムーブメントなのか、次章で検討してみることにしよう。
- https://www.youtube.com/watch?v=Vn3i4J1sGBE (※現在視聴不可)
- https://www.youtube.com/watch?v=vb15EhgbvHA
- Mishell McCumber, The View Beneath (Canada: Mighty Roar Book, 2016), 62.
- C. Peter Wagner, Wrestling with Alligators, Prophets and Theologians (Ventura, CA: 2010), 238-239.
- R. Douglas Geivett & Holly Pivec, A New Apostolic Reformation? (Wooster, OH: Weaver Book Company, 2014), 28.
- Brad Christerson & Richard Flory, The Rise of Network Christianity (New York: Oxford University Press, 2017), 87.
- R. Douglas Geivett & Holly Pivec, God’s Super Apostles (Wooster, OH: Weaver Book Company, 2014), 107.
- 同書、p. 7.
- Christerson & Flory, The Rise of Network Christianity, 88.