目次
第9章:NARの問題点 その七 「既成教会の否定によるトラブル」
真新しい教会観
NARの人々から見れば、既成のキリスト教会は牧師によって支配されて来たために、貧弱で、未熟で、人間中心になっている。また、使徒による支配の重要性を認めようとしない教会は、キリストの大宣教命令、つまり「七つの山の制覇」に失敗している。使徒たちの手に教会の支配権が戻されない限り、教会は新しい皮袋になれずに、聖霊の新しいブドウ酒を受け止めることができない、という(マタイ9章17節参照)。
NARのビジョンに賛同し、ネットワークに加入する教会は、 “Apostolic Center” (使徒的センター) と呼ばれる。そこには、「天の御国を地上にもたらす」というビジョンが強調され、そのビジョン達成のために信者たちが積極的に派遣されて行く。「職場における使徒」と認められた人は、職場(ビジネス界)をキリストの支配下に入れるために、出来るだけ影響力が持てるように努力する。彼らは、”extended church”(拡大された教会)と呼ばれる。一方、既成教会のビジョンは無いに等しく、牧師たちはわがままな羊たちの世話のために翻弄させられてばかりいるそうだ。
ベテル超自然的ミニストリー学校の学長であるクリス・バロトン氏は、この根本的な違いについて、次のように述べている。
「牧師が運営する教会は、人を派遣するためではなく、人を集めるための政治構造になっているので、ほとんど町の文化と無関係です。それに対して、使徒が運営する教会は、社会を劇的に変革させる人間を訓練して整え、また派遣することを目的としています。」[1]
「50万人の人々が住む町で、仮に日曜日の朝5000人の信者を集めたとしても、もしその町の犯罪率が変わらず、癌になる人々の数が減らず、離婚率が高いままで、不況が続くなら、何の証しになるのでしょう。」[2]
C・ピーター・ワグナー氏も、牧師の働きの限界について、こう語っている。
「牧師の責任は、ただ群れの世話をすることだけです。軍隊を動員するための賜物や資質を持っている牧師は、ほんのわずかしかいません。しかし、その一方で、使徒たちはそれを持っているのです。」[3]
もう一つ、「使徒的センター」と教会との相違点は、礼拝のあり方にある。「使徒的センター」には、預言的なメッセージや新しい啓示やサタンに対する勝利宣言がある。また、次元の違う賛美が捧げられる。これは、 “throne room worship” (王座室礼拝) と呼ばれ、神の御座の近くまで進む、高い緊張感と感動のある礼拝を指している。ちなみに、既成教会の礼拝は “bedroom worship” と呼ばれ、リラックスした雰囲気が特徴だそうだ。
更に、クリス・バラトン氏は、こんな決定的な違いを指摘する。
「この使徒的時代が到来してから、御使いたちはもはや、既成教会の権威を認めなくなって来ています。パウロが教えているように、御使いは真の霊的権威だけを認めます。実際に、私たちの祈りに答え、私たちの預言を成就させてくれるのは、御使いたちなのです(1コリント11章4、10節参照)。新約聖書の180以上の個所に、御使いに関する言及があります。」[4]
使徒の権威に従わなければ、祈りが答えられないという主張だ。C・ピーター・ワグナー氏も、一つの地域の使徒と公認された使徒は、自分の統轄するエリアの「門番」となることを述べている。[5] 具体的に言うと、彼は聖霊の祝福を、彼の判断一つで、支配下にある教会に与えたり、拒んだりする権限を持つ。別の言い方をするなら、彼の承認を得ない教会の働きはすべて、神の前で無効となるのだ。ローマカトリック教会の司教たちと同等の権威を持つことになると言えよう。
もう既に、NARのビジョンに共鳴するアメリカの牧師たちの間で、「使徒」のタイトルを競い合うバトルが始まっている。また、誰がこの町の使徒として任命されたかという激しい議論も起こっている。前述のとおり、NARは規約やルールのある組織ではないから、今後も混乱が続きそうだ。
バーチャル教会続出
チャック・ピアス氏は、グローリー・オブ・シオン教会(米国コロラド州)において礼拝を行なっている。礼拝出席者数は約2000人だが、インターネットを通して、リアルタイムで礼拝の様子が600ほどの家の教会に発信される。それぞれの小さなグループが人の家に集まり、パソコンの画面を見ながら、礼拝に参加する訳だ。集まった献金もそのまま、ピアス氏の教会に送られる。
また、ピアス氏のネットワークには、5000の「シオンの家」も登録されている。家の教会ではなく、ピアス氏を使徒として認める家族だが、彼らもインターネットによって礼拝に参加する。更に、イーメールによってピアス氏とつながっている個人が6万人いる。毎日、ピアス氏からの励ましや「預言の言葉」を受け取る人々だ。
前述のとおり、チェ・アン氏も、50カ国の25,000の教会の使徒になっているが、すべての教会から献金を受け取っておきながら、各教会の牧師や信徒との実際の接点がほとんどない。牧会的なケアを受けなくても、アン氏とつながっていることによって、神からの力が与えられていると、教会側の人々が考えるようだ。[6]
使徒たちの権威の下に生まれる一致
明白な教理体系もなく、組織としての規約やルールがないにもかかわらず、NARには霊的な一致があるとされている。その土台は、使徒たちの権威にある。ディビッド・カニストラシ―氏の言葉を借りると、「使徒パウロの時代と同じように、この終わりの時代においても、真の使徒たちが認められて、従われない限り、信仰の一致はあり得ない」そうだ。[7]
これに、ビル・ジョンソン氏も同調している。
「神の民は何百年も、幾つかの真理を中心に、交わりをして来ました。これらの信者たちを一つにするために、教派や組織が作られました。共通した教理体系を持つことによって一致が生まれ、目的も明らかにされました。…しかし、このやり方には一つの問題があります。それは、画一的教育による一致であるということです。…必ずしも重要でない教理にも同意することが交わりの条件となっているなら、必然的にも分裂が起こるのです。教理にも大きな意味がありますが、真の一致によって現れようとしている神の栄光の重みに耐え得る土台にはなり得ません。…ここ数年の間に、人々は教理ではなく、霊的な父たちを中心に集まるようになりました。…使徒たちは性質上、まず第一に、父たちなのです。…ちょうど、父親と母親が家庭を安定させるように、使徒たちと預言者たちは教会に安定を与えるのです。」[8]
C・ピーター・ワグナー氏も、同じように、「使徒的一致」を持つには、必ずしも統一した教理を共有する必要はないと述べている。NARの中に三位一体を否定する人間もいるが、交わりの妨げにはならないようだ。NARのリーダーたちは、「それほど、教理を重んじない」そうだ。[9]
キリスト教界における分裂戦争の預言
間もなく起こるであろう出来事としてNARの預言者たちが予想しているのは、「キリスト教界における分裂戦争」だ。ネビル・ジョンソン氏( “The Academy of Light” 創立者)の預言によると、聖霊の超自然的なみわざを認めるかどうかを争点に、教会は真っ二つに割れて、激しいバトルが繰り広げられるそうだ。その時、NARの動きに反対する牧師たちはインターネットでNARの預言者を中傷する(その預言の的中率を批判する)が、彼らは神に打たれて死ぬ。そうして、神は羊と山羊を分けて、ご自身の教会を清めてくださる、ということだ。ジョンソン氏はサポーターたちに対して、「神の器たちを批判してはならない。それは危険なことだ」と述べてから、自分を批判した男の話を紹介している。その男は執拗に聖書からジョンソン氏の教理上の問題を指摘しようとしたが、ある時、「主の御手がおまえの上にある」と彼に言うと、叫びながら教会から出て行ったそうだ。また、その後、精神病院に入院した、という。
リック・ジョイナー氏も、その著書『ファイナルクエスト』の中で、NARの軍隊と既成のキリスト教会の信者たちとの間に勃発する戦争について詳細に記している。『ロード・オブ・ザ・リング』のように読める話だが、幻の中で神から示されたことだという。最初に「地獄の大軍」が登場するが、「傲慢」、「自己正当化」、「世間体」「利己的野心」、「邪悪な判断力」、「嫉妬」などの軍旗を持つと共に、「威嚇」、「告発」、「裏切り」、「噂話」、「中傷」、「他人のあら探し」と名付けられた武器を手にしている。この軍団は人間から成っているのではなく、悪霊によって構成されている。また、これらの悪霊は戦馬ではなく、クリスチャンの背中に乗って行進する。高そうな洋服を身にまとい、教養も社会的地位もある人々のように見えるが、実は、彼らは偽クリスチャンで、暗闇の力と手を組んでいる。この大軍はサタンの支配下にあり、真の教会(注:NARの使徒的ネットワーク)と戦うために集められたものだ。初めはサタンの大軍が優勢だが、途中から戦士として登場するジョイナー氏自身の活躍により、真のクリスチャンから成る軍団が巻き返しに成功する、という筋書きになっている。
2000年1月にリック・ジョイナー氏の団体(モーニングスター・ミニストリーズ)を脱退したミシェル・マックカンバー氏も、しばしば、ジョイナー氏がNARと既成教会との間に起こるべき戦争を、南北戦争に例えてメッセージの中で語っているのを聞いたという。NARは北軍の兵士で、聖霊の導きによって生きる人々であるのに対して、既成教会は南軍の兵士で、理性によって生きる人々だそうだ。最終的には、南軍は神によって破滅させられるが、真のクリスチャンはただその戦いを傍観する訳ではない。神の働きに参与する、つまり、武器を持って偽クリスチャンを殺す、とジョイナー氏が断言したという。また、マックカンバー氏の証言によると、NAR側は実際に、陸軍、海軍、空軍を有するようになるという「預言」もあったそうだ。
更に、チャック・ピアス氏も、クリスチャン同士の戦争に言及している。 A Time to Triumph: How to Win the War Ahead (勝利の時:先にある戦争に勝つ方法) の中で、「戦争しなければならないこともある」(89ページ)と言って、その聖書的根拠として、マタイによる福音書10章34節を引用している。
「わたしが来たのは地に平和をもたらすためだと思ってはなりません。わたしは、平和をもたらすために来たのではなく、剣をもたらすために来たのです。」
ピアス氏は明言を避けながら、近い将来に起きる戦争で、霊的な剣ではなく、文字通りの剣(武器)が使われるとほのめかしている。また、旧約聖書のヨシュア記を例に挙げながら、「戦争で人を殺しても、必ずしも殺人罪に問われるとは限らない」とも言っている。
また、マイク・ビックル氏(International House of Prayer 創立者)も最後の戦争に言及し、真のクリスチャンが「信仰の祈りによって」神の裁きを呼び下す、と言っている。
「私が言いたいのは、癒しをもたらす信仰の祈りもあれば、人を死なせる信仰の祈りもある、ということです。…人も、人の資産も、天の武器による攻撃を受けます。町が丸ごと滅ぼされることもあるのです。」[10]
- Kris Vallotton, Heavy Rain: How to Flood Your World with God’s Transforming Power (Bloomington, MI: Chosen Books, 2010), 74.
- 同書、73.
- C.Peter Wagner, Dominion! How Kingdom Action Can Change the World (Grand Rapids, MI: Chosen Books, 2008), 123.
- Where Have All the Angels Gone, Kris Vallotton, Charisma Magazine, 9/13/2016.
- Don Pirozok, Kingdom Come (Spokane Valley, WA: Pilgrims Progress Publishing, 2016), 69.
- Brad Christerson & Richard Flory, The Rise of Network Christianity (New York: Oxford University Press, 2017), 55.
- David Cannistraci, Apostles and the Emerging Apostolic Movement: A Biblical Look at Apostleship and How God is Using it to Bless His Church Today (Vetura, CA: Renew Books, 1996), 196.
- Apostolic Teams — A Group of People who Carry the Family Mission, The Elijah List, November 21, 2008.
- C. Peter Wagner, Changing Church (Venrua, CA: 2004), 157.
- IHOP TV podcast 3 ( https://www.youtube.com/watch?v=K5FMsDrNyn4 )